マウス視覚野スライス標本を用いて、2/3層の錐体細胞間抑制の特性を解析し、以下の成果を得た。 1.1個の2/3層錐体細胞にパッチ電極からbiocytinを導入し、その細胞の軸索を蛍光染色した。この染色とGADとVGluT1の免疫蛍光染色を同時に行い、単一の錐体細胞が2/3層においていくつの錐体細胞間抑制と推定されるシナプス結合を作るか、またその結合部位はどのように分布するかを調べた。その結果、錐体細胞間抑制シナプスと推定される部位は100前後見られ、軸索全体にほぼ一様に分布していた。 2.錐体細胞軸索終末から抑制性細胞軸索終末へのシナプス伝達は、カイニン酸受容体とAMPA受容体の両者により仲介されていることはすでに分かっているが、この伝達にNMDA受容体が関与する可能性を検討した。灌流液にNa^+チャネルブロッカーのテトロドトキシンを加えた状態で、錐体細胞からホールセル記録し、膜電位を興奮性シナプス伝達の逆転電位(0mV)に保持して、微小抑制性シナプス後電流(mIPSC)を記録した。灌流液にNMDA受容体阻害薬APVを加えると、mIPSCの振幅に変化は見られなかったが、その頻度は有意に低下した。NMDAを灌流液に加えると、mIPSCの振幅に変化は見られなかったが、その頻度は有意に増加した。このNMDA受容体の阻害薬と賦活剤の効果は、AMPA/kainate受容体の阻害薬NBQXの存在下では見られなかった。Mg^<2+>を除いた灌流液では、mIPSCの頻度はNBQXを加えても変化しなかったが、APVを加えると低下した。この結果は、抑制性シナプス前終末にはAMPA/kainate受容体とともにNMDA受容体も存在することを示している。このNMDA受容体が錐体細胞間抑制にどのような役割を果たすかは、来年度に2個の錐体細胞からの同時ホールセル記録を行って、解析する予定である。
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