マウス視覚野スライス標本を用いて、2/3層の錐体細胞間抑制の特性を解析した。前年度の実験結果により、抑制性シナプス前終末にはAMPA/kainate受容体とともにNMDA受容体も存在することを示す結果が得られたので、このNMDA受容体が錐体細胞間抑制に寄与するかを2個の2/3層錐体細胞からの同時ホールセル記録により調べた。全ての例で錐体細胞間抑制性シナプス後電流(ip-IPSC)の振幅がNMDA受容体阻害薬APVにより減少した。潜時の短い(<3ms)ip-IPSCでは30%程度の減少が起こり、潜時の長い(>3ms)ip-IPSCでは80%程度の顕著な減少が見られた。このように、APVはip-IPSCの振幅を顕著に減少させたが、その潜時にはほとんど影響を与えなかった。したがって、錐体細胞間抑制における錐体細胞軸索終末から抑制性細胞軸索終末への興奮性伝達にはAMPA/kainate受容体と共にNMDA受容体も重要な貢献をしていることが分かった。テトロドトキンを灌流液に加えて活動電位が発生しない状況で、mIPSCの頻度をAPVが減少させたので、神経活動が無い状態の低い濃度レベルの細胞外グルタミン酸が少なくともあるレベルの活性化を軸索終末のNMDA受容体に引き起こしていることになる。シナプス前部のNMDA受容体の膜電位依存性が通常のものと異なり、静止膜電位に近い電位でも活性化されるか、あるいは、静止状態でも抑制性神経終末がある程度脱分極した状態にあることが推測される。NMDA受容体のGABA放出に対する寄与は、脱分極によりCa^<2+>チャネルの活性化を引き起こすことと、NMDA受容体チャネルを介するCa^<2+>流入の2つが考えられるが、現在のところどちらの可能性が正しいか分からない。
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