神経回路の基本構造は遺伝的に規定された発生プログラムによって形成されるが、一方で神経細胞の電気的活動によって修飾されることが知られている。本研究では、大脳皮質ニューロンの枝分かれ形成について、RhoファミリーGTPaseに注目し、神経活動依存的な制御機構を明らをかにすることを目指した。 生後0日目のラット大脳皮質より切片を作製して培養し、上層ニューロンに蛍光タンパクEYFPの遺伝子を導入することによって、軸索形態を観察した。この分枝形成に対するRhoAの関与を調べるため、活性化体(CA-RhoA)・不活性化体(DN-RhoA)をEYFPと共発現させ、同様の観察を行ったところ、RhoAの活性化体を導入した場合、50μm以下の短い分枝が軸索から多数出現し、分岐点数はコントロールの3倍以上に増加した。逆に、不活性化体を発現させた場合には、やや減少する傾向が見出された。次に内在性のRhoA経路の活性を上昇させるリゾフォスファチジン酸(LPA)を投与したところ、短い分枝が多数出現し、RhoAの活性化体を導入した場合と似た特徴が見られた。一方、RhoA下流のキナーゼROCKに対する阻害剤Y-27632を投与したところ、枝分かれは顕著に減少した。以上の結果より、RhoAは水平軸索の分枝形成に対して促進的に働くことが明らかになった。次に、TTXあるいはグルタミン酸受容体のブロッカー存在下で内在的RhoAの活性化状態をpull-downアッセイを用いて解析したところ、活性化RhoAの量がこれらプロッカー存在下では顕著に減少することが示された。以上の結果より、RhoAは神経活動に依存した軸索枝分かれ形成のmediatorとして働くことが示唆された。
|