神経活動依存的な視床皮質投射の形成機構を明らかにする上で、視床軸索側の変化に加えて後シナプス側である皮質神経細胞の形態変化は重要な要素である。この問題に取り組むために、エピジェネティックなクロマチン構造制御に着目して、ヒストン脱アセチル化酵素9(HDAC9)による神経活動依存的な遺伝子発現制御機構を調べた。まず、発達初期の大脳皮質細胞ではHDAC9が核に局在するのに対して、生後発達と共に核から細胞質へと移行することが分かった。この核細胞質移動における神経活動の作用を培養下で調べたところ、活動に伴って移動が促進されること、またナトリウムチャネルのブロッカー投与によって移動が逆転することが明らかになった。さらに、RT-PCR法ならびに免疫化学法により、itnmediate early geneの一つc-fosの発現がHDAC9の核細胞質移動によって増大することも明らかになった。加えて、核から細胞質への移動を阻止した変異体HDAC9を導入することによって、神経活動依存的なc-fosの発現上昇も生じないことがわかった。遺伝子発現調節に加えて皮質細胞の形態を培養下で調べると、変異体HDAC9遺伝子を導入することによって樹状突起の成長が抑制された。逆に、内在的HDAC9をshRNAを用いてノックダウンすると、有意に樹状突起の伸長が促進された。以上の結果から、発達期の神経活動に依存したHDAC9の核-細胞質間移動による遺伝子発現調節が樹状突起形成に関与することが強く示唆された。
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