ショウジョウバエ嗅覚神経系の一次中枢内には多数の糸球体が存在する。この糸球体は、嗅覚神経細胞と二次神経細胞の間の特異的なシナプス結合により形成され、また定型的なパターンで一次中枢内に配置している。本研究では、この糸球体の定型的な配置パターンを含めた嗅覚系の発生を制御する機構を明らかにすることを目的とした。 この問題にアプローチするために、われわれは糸球体の配置に異常が観察される変異株のスクリーニングを行った。その結果、Wnt5が嗅覚系の発生を制御していることをつきとめた。さらに引き続きWnt5の受容体として同定されていたDrlの遺伝子変異株を調べてみると、糸球体の配置は確かに異常を示すがWnt5変異株における配置パターンとは異なっていた。遺伝的な解析の結果、嗅覚系においてDrlはWnt5シグナルを抑制する作用があることが判明した。さらにこのことは、Drl以外にもWnt5受容体が存在することを意味している。そこでわれわれは、Drlと構造的に類似したDrl-2の変異株を調べた結果、Drl-2が確かにWnt5の受容体であること、drl drl-2二重変異株の糸球体の配置はWnt5変異における配置により類似していること、Drl-2は発現する細胞によってはWnt5シグナルを抑制しうることが明らかとなった。また、Drlも嗅覚系において抑制作用だけでなく、発現する細胞によってはWnt5シグナルを伝える作用を持つことも示された。このように、類似した受容体分子がそれぞれ機能を使い分けることにより細胞間のWnt5シグナルを制御し嗅覚系の発生を調節していることが明らかとなった。
|