中枢神経系の主要なグリア細胞であるアストロサイトは様々な神経活動に関わる多機能な細胞集団である。しかし、個々のアストロサイトが多機能なのか、それぞれの機能に特化された多種類のアストロサイト亜細胞系譜が存在しているのか明らかでない。本研究では、後者の「アストロサイト亜細胞系譜仮説」を作業仮説として想定し、その実証を目的に遂行した。研究代表者自身が作製したグリア線維性酸性蛋白質(GFAP)遺伝子座にloxP-nlacZ-pac-loxP-GAP43GFPを挿入したGFAP/loxPレポーターマウスマウスと、大脳皮質および海馬領域の神経幹細胞に特異的に発現するEmx1 遺伝子のプロモーター支配下にCreリコンビナーゼ遺伝子を組み込んだEmx1-CreKIΔneoマウスを交配し、Emx1陽性幹細胞由来のアストロサイトをGFPで、Emx1陰性幹細胞由来のアストロサイトをβガラクトシダーゼで標識した。大脳皮質及び海馬領域のほぼ全てのアストロサイトがGFP 陽性を示したのに対し、脳梁周囲の正中線グリア細胞はβガラクトシダーゼ陽性であった。正中線グリア細胞は交連線維伸長を促進する特殊な機能を有するアストロサイトである。正中線グリア細胞が近隣の大脳皮質アストロサイトとは異なる幹細胞に由来する事が明らかになったことから、各機能に特化した多種類のアストロサイト亜細胞系譜の存在を支持する結果が得られた。更に、セルソーターを応用して回収した大脳皮質アストロサイトと海馬アストロサイトに特異的に発現する遺伝子をマイクロアレイ解析し、グリア機能の脳領域特異性について考察を加えた。
|