本年度は、arcadlin-TAO2-p38 MAPKシステムの制御系、生理機能、病態との関連を解析した。 1)TAO2遺伝子のノックインマウス(制御ドメインにアミノ酸変異を挿入)を作成した。この変異のスパイン形態に対する影響を調べるため、ノックインマウスの脳切片にDiIを遺伝子銃で撃ち込み、海馬の神経細胞を可視化した。神経細胞の形態を野生型と比較したところ、ノックインマウスの樹状突起スパインは野生型に比べて成熟が遅れているという予備的な結果が得られた。 2)培養ニューロンに化学的な長期増強を起こさせる実験系を確立した。Arcadlinノックアウトと野生型ニューロンに長期増強を起こさせ、四時間後に樹状突起スパイン形態を比較した。野生型ではスパイン幅は長期増強前後でほとんど変わらなかったが、arcadlinノックアウトではスパイン幅が拡大していた。すなわち、arcadlinは生理的な長期増強においても誘導され、スパイン容積を元に戻すように働くと考えられた。 3)Arcadlinには細胞内領域が長いスプライスバリアント(arcadlin-L)が存在する。Arcadlin-Lと短いバリアントarcadlin-Sを区別するため、arcadlin-Sが出来ない変異をarcadlinのmini-geneに挿入し、HEK293細胞に発現させたところ、arcadlin-Lだけが翻訳された。この実験系を用いて、スプライシング因子srsfの効果を調べた結果、arcadlin-Lを増加させるスプライシング因子を同定できたが、arcadlin-Sを増やす因子は見出せなかった。脳内ではarcadlin-Sが優位であることから、これらの因子が欠如あるいは抑制されている可能性が示唆された。
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