衝動性の抑制や状況に応じた行動選択には大脳-基底核ループによる情報処理が重要であると考えられ、統合失調症や注意欠陥多動性障害、パーキンソン病など多くの精神神経疾患でその異常が認められる。その神経機構を明らかにすることは、運動の随意性制御を理解する上で重要であるとともに、これら疾患の病態を探る上で有用である。本研究では眼球運動系をモデルに、ルールに基づいた行動選択に関与する神経機構の一端を解明することを目指している。具体的にはanti-saccade課題を訓練したサルの運動性視床、補足眼野、線条体の神経活動と同部の不活化および電気刺激の効果を定量的に調べる。 今年度は大学院生とともに行ってきた運動性視床の実験をまとめ、英文論文として国際専門誌に発表した。この実験の際、視床背内側核の不活化によって、pro-saccadeを要求されている状況でanti-saccadeをするエラーが観察された。類似の現象は先に論文発表した淡蒼球外節の不活化実験の際にも認められており、ルール保持の障害と考えられる。また、昨年度に引き続き大脳皮質の刺激実験を行っており、自発運動タイミングの選択に補足眼野の信号が重要であることを見いだし、国際学会等で中間報告をしている。試行ごとにルールを提示せず、プロックによってターゲットに対する眼球運動の方向を変えるようにサルを訓練しており、最終年度中に線条体の記録および不活化実験を行う予定である。
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