平成20年度は先天性心疾患のファロー四徴症手術における右室流出路狭窄解除に伴う切除心筋組織から単離したヒト心筋細胞を用いた実験を行う予定であったが、手術件数が思ったほど伸びなかったため、予定していたバックアッププランに従い、ヒトと共通したアミノ酸配列を持つ伸展感受性BK(SAKCA)チャネルが発現されることがわかっているトリ単離心筋細胞を用い、伸展刺激とカルシウムハンドリングおよびSAKCAチャネル活性との関連に関する検討を行った。その結果、過去の単一チャネルレベルの実験結果と異なり、生体内心ではSAKCAチャネルは直接伸展刺激により活性化されるのではなく、伸展刺激により増加した細胞内カルシウムにより二次的に活性化されることが強く示唆された。SAKCAチャネルを介した機械電気帰還現象はこれまで報告されておらず、トリとヒトとのSAKCAチャネルの共通性からもヒト興奮収縮連関の制御における機械的負荷の役割として重要な知見であるものと思われる。また、伸展刺激がカルシウムハンドリングに及ぼす影響としては、オックスフォード大学のグループとの共同研究により、ラット単離心筋細胞において伸展刺激によりカルシウムスパーク(筋小胞体のカルシウム放出チャネルであるリアノジン受容体からの自発的なカルシウム放出現象)が直ちに増加することを明らかにした。この現象は細胞骨格の破壊によってのみ抑制されることから、化学的反応を介さないリアノジン受容体に対する物理的な作用そのものである可能性もある。これも全く新しい世界で初めての報告であり、フランク・スターリングの心臓法則に関わる新たな発見として注目されている。
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