研究概要 |
分子量制御された高分子ブラシ表面の作製が期待できるリビングラジカル重合法に着目し、温度応答性高分子poly(N-isopropylacrylamide)(PIPAAm)を固体基板上に高密度で充填した新しいインテリジェント表面の構築を目的とした。具体的には、これまでに確立した可逆的付加-開裂連鎖移動型ラジカル(RAFT)重合法の技術を応用し、ガラス基板上にPIPAAmブラシ表面の作製を試みた。はじめに、シランカップリング反応によりガラス基板上にアミノ基を導入し、縮合反応によりアゾ系重合開始剤固定化ガラス基板を調製した。RAFT剤およびIPAAmを含む1,4-dioxane中に重合開始剤固定化基板を浸漬させ、RAFT重合によりPIPAAmブラシ表面を得ることに成功した。RAFT剤の濃度(0.1-1mM)を調整することによりグラフトポリマーの分子鎖長を制御することが可能であり、また、開始剤の固定化密度を調整することによりPIPAAmのグラフト密度の制御も実現した。これらのPIPAAmブラシ表面に接着したウシ血管内皮細胞は下限臨界溶液温度(LCST)以下の温度で培養することにより脱着した。さらに、これらの基材表面上にコンフルエント状態になるまで培養した細胞を低温培養(20℃)によってシート状に回収することが可能であった。細胞培養基材の温度応答性はPIPAAmの分子鎖長およびグラフト密度に依存しており、細胞シートの作製に要する期間および細胞シート回収の可否等の条件は温度応答性ブラシ表面のPIPAAm鎖長・グラフト密度によって異なった。この結果から、各細胞種の接着性・脱着性に合わせた温度応答性基材の提供を可能にする新規な技術を確立したと言える。事実、繊維芽細胞や上皮細胞等の培養実験を行い、細胞種に依存した接着・脱着挙動を確認している。さらに今後、PIPAAm鎖末端への機能性分子の導入およびブロック共重合体により形成された温度応答性ブラシ表面の開発を遂行し、従来の温度応答性培養基材とは異なる機能化を図る予定である。
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