分子量制御された高分子ブラシ表面の作製が期待できるリビングラジカル重合法に着目し、温度応答性高分子poly(N-isopropylacrylamide)(PIPAAm)を固体基板上に高密度で充填した新しいインテリジェント表面の構築とその機能化を目的とした。具体的には、可逆的付加-開裂連鎖移動型ラジカル(RAFT)重合法の技術を応用し、ガラス基板上にPIPAAmブラシ表面を作製した。細胞培養基材の温度応答性はPIPAAmの分子鎖長およびグラフト密度に依存しており、細胞シートの作製に要する期間および細胞シート回収の可否等の条件は温度応答性ブラシ表面のPIPAAm鎖長・グラフト密度によって異なった。さらに、この手法により作製したPIPAAmブラシ末端に存在するRAFT剤由来の官能基を利用することにより、PIPAAmブラシ末端から親水性ポリマーpoly(N-acryloylmorpholine)(PAcMo)をグラフトしたブロック共重合体型の温度応答性ブラシ表面を作製した。フォトリソグラフィ技術によりPAcMoグラフト部分を幅を50μmのストライプパターンに設計することにより、繊維芽細胞はこのパターン化温度応答性表面上で同一方向に伸展した。さらに、長期間培養することで、細胞は配向性を維持したまま増殖し、コンフルエント状態まで培養可能であった。この細胞を低温培養によって剥離させ、配向制御された細胞を細胞シートとして回収することに成功した。細胞骨格や細胞外マトリックス等も配向性を示しており、力学的・生化学的にも異方性を示す細胞シートであると期待される。このような生体組織を模倣した高機能な細胞シートを作製する技術を確立したことにより、次世代型の細胞シート工学を展開できると期待される。 また、ブラシ末端の官能基をカルボキシル基に変換することにより、細胞の接着性を劇的に向上させることに成功した。
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