研究概要 |
本研究では、高度化、集積化、情報化が可能な診断・再生エレメントの設計、製造にかかわる技術全般の確立にむけて、再生エレメントの研究を行うことを目的とした。エレメントの高機能化への手段として、細胞が3次元的に存在するためにより生体の環境に近く、分化機能の維持に有利である凝集塊(スフェロイド)培養に注目した。スフェロイドの培養条件、細胞数や細胞機能、タンパク質産生といった観点から生化学的な評価を行い、スフェロイドの大きさと機能に関する情報を精査し、研究のまとめを行った。特に軟骨に着目し、スフェロイド粒径を系統的に制御したスフェロイドパターニング技術を開発した結果、軟骨大型化のために最適なスフェロイド設計指針を確定できた。さらに東京大学との共同により、分化誘導のための添加因子であるBIT(BMP-2, insulin, T3)を用いると、スフェロイドのサイズが増大することが明らかとなった。この結果はスフェロイドの組織性の向上を示唆するものと考えられる。そこで、軟骨細胞が産生する細胞外マトリクスとして、酸性ムコ多糖(GAG)を定量した結果、添加因子によりその産生能を長期間維持できることが明らかとなった。またそのGAG産生量は、ある特定濃度のアスコルビン酸添加との共刺激によって、シナジー効果を誘導できることが新規に見出された。これらの検討から最適化されたスフェロイド状態において、再生エレメントとしてのスフェロイドの大型化を達成した。 次にこの技術と合わせ、スフェロイドをより実際的な移植可能な材形へと展開するためのマトリックス材料の設計と合成を行った。つまり、スフェロイドアレイの細胞凝集塊を機能を維持したまま高次元化するためのスフェロイド集積化材料を導入することによって、大型化・集積化するための技術を開発した。具体的にはこれまでに確定したスフェロイド技術と融合する生体親和性マトリックスとしてのゲル化材料を開発した。材料特性として、分子構造と強度・物質透過性・細胞機能との相関性といった観点から調べ、目的達成に最適な条件を確定した。そしてスフェロイド-マトリックス複合体を作成し、動物移植実験によって三次元複合構造体の構築について実用検証を行った。このような一連の実験を統合し、運動器系組織の再生技術として開発を進めた結果、関節軟骨における動物実験において移植する構造体として十分機能する再生エレメントであることを示した。
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