研究概要 |
昨年度に購入した電子増倍型CCD高感度X線カメラに対して,アルミ箔を用いてYAGシンチレータの遮光を入念に行い,バックグラウンドを予定のレベルまで下げることに成功した.前年度までに開発した円盤状回転ターゲットに,位置合わせ用の石英シンチレータと二種類の異なる金属標的を取り付けて調整後,金属標的を2.0-25MeVの陽子ビームで照射し,X線収量を求めた.厚さ5mmの水ファントムを想定し,X線強度と透過率のバランスを検討して,二波長(エネルギー)X線源としてはジルコニウム(KαX線エネルギー=15.7keV)及びニオブ(KαX線エネルギー=16.6keV)標的を採用した.また,造影剤はストロンチウム(K吸収端エネルギー=16.1keV)化合物に決定した,透視画像の動画撮影実験のための試験用ファントムとして,水を満たしたプラスチック水槽内に小径のゴム管を置き,定量ポンプを用いて管内に造影剤水溶液を一定速度で流す機構を準備した,このファントム専用のアダプダーを製作して真空容器とX線カメラ間に固定した.同時に,動画撮影に十分なX線強度を得るためイオン源動作条件の最適化を行って陽子ビーム電流の増大を試みた.しかし,ビーム電流は増大したものの目標値に届かなかったためX線強度が低く,予定していた動画撮影には至らなかった.代わりに露光時間が数秒の静止画撮影試験を行い,X線エネルギーと造影剤の組み合わせにより,コントラストが大きく変化することを確認できた.これら異なる波長のX線で撮影した隣接するフレーム同士のカウントの差を計算して差分画像を作成するプログラムの開発も行った.並行してX線源としての陽子ビームの焦点を更に小さくするためのビーム集束装置として引き続きガラスキャピラリー光学系の開発を行い,集束性能の材質・形状依存性を調べ,最適条件を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
加速器とイオン源の不調により一次陽子ビームのパワーが予定の値に達しなかった.陽子ビームの集束,回転ターゲットからのX線発生,X線撮影装置系の設置と静止画撮影実験等は概ね達成できたが,これらに予想以上の時間を要し,途中経過としてのビーム集束装置の改良に関する研究の発表に留まった.
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今後の研究の推進方策 |
一次陽子ビームのパワーを予定の値まで増大させるため,加速器系の大規模なオーバーホール実施を検討する。それでもX線出力が不足する場合は,撮影のフレームレートを下げて露光時間を増加させ,二波長差分法による高コントラスト動画撮影の原理的実証を最優先に実験を進める.X線源の強度と光源としてのサイズは相反する関係にあるので,必要に応じて試験用水ファントムの寸法形状や造影剤の濃度,流速についても再検討を行って原理実証のための最適化を試みる。
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