目的:全く新しい治療戦略として、迷走神経の電気刺激による心不全治療法を提案し、実験的にその効果を検証する。また、本療法の作用機序をあきらかにし、治療プロトコールを最適化するために、本療法が不全心における機械的、電気的、および微小循環的リモデリングに与える影響を評価する。 平成20年度は迷走神経刺激療法(VNS)の心不全ラットの生命予後と心機能に与える影響の評価を行った。 H21.4~H22.10は迷走神経刺激(VNS)療法が心不全ラットにおける運動負荷中の心機能に与える影響の評価を行った。迷走神経の役割を解明するための"心臓のアセチルコリン(ACh)合成系を増強したマウスの作成"が遅れたため実験計画に6ヶ月の遅延が生じた。 結果:1.VNSは、心筋細胞内のACh合成に関わる律速酵素コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を誘導した。2.VNSは、心筋細胞内のAChレベルを12時間以内に上昇させた。3.心筋細胞内のACh合成系を増強したマウスは、強い虚血耐性を示した。4.VNSと同様の効果をアセチルコリンエステラーゼ(ACh-E)阻害薬により再現できた。5.ACh-E阻害薬の中で、塩酸ドネペジルが最も強い心保護作用を示したが、その作用は、ニコチン受容体阻害薬、ムスカリン受容体阻害薬あるいは、両者の同時投与によっても抑制することができなかった。 結論:VNSは、心筋細胞内のACh合成を誘導し、細胞内AChレベルを上昇させることによって、心保護作用を発揮する。また、塩酸ドネペジルは、ACh受容体を介さずに、心筋細胞内AChレベルを上昇させ、心保護作用を発揮する。
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