研究概要 |
人工網膜は、視細胞変性疾患による失明患者の視機能を回復させる目的で研究されている人工感覚器であり、カメラで捉えた画像データに基づいて網膜を電気刺激することにより患者に疑似光覚を発生させるものである。現在、国内外で研究されている人工網膜は、視細胞変性後の残存網膜神経回路が正常に機能することを前提にしてきた。しかし、最近、視細胞変性後の網膜神経回路では、その変性初期から残存する神経細胞の遊走、変性、異所性シナプスの形成など大規模なリモデリングが始まっている事が分かってきた。そこで、本研究の目的は、我々が開発している脈絡膜上-経網膜刺激型(suprachoroidal-tranretinal electrical stimulation, STS)の人工網膜をリモデリングに対応させるため、網膜神経回路の機能特性が視細胞変性に伴ってどのように経時的に変化していくのかを解析するとともに、網膜神経回路への電気刺激がこのリモデリングにどのような影響を与えるのかを検討することとする。実験材料には視細胞変性疾患モデル動物で、ヒトの網膜色素変性症と酷似した経過の視細胞変性をおこすことで知られるRoyal College of urgeons (RCS)ラットを使う。まず、変性初期の8週齢から完全変性後の32週齢までのRCS ラットを用いてSTSに対する網膜興奮の時空間応答特性を調べ、それが加齢、すなわち視細胞変性の進行にともなってどのように変化するのかを解析する。 続いて、網膜への慢性STSが網膜神経回路のリモデリングに与える影響を評価するため、RCSラットの片側眼球に2時間/日、5日/週の頻度でSTSを1ヶ月間加えたのち、この動物の網膜切片標本を作製する。反対側の眼球はsham operationを施しておく。神経節細胞・ミュラー細胞・アマクリン細胞・双極細胞の免疫染色を行い、網膜の細胞構築を光学顕微鏡下で解析する。さらに、同様の電気刺激をした網膜を用いて、STSに対する網膜興奮の時空間応答特性がどのように変化したかを調べるため、前述の(1)(2)の解析をおこなう。 最後に、以上の結果を踏まえて、リモデリングした網膜神経回路に最適な刺激パラメータを検討する
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