失語症患者に対して治療的にrTMSを用いる場合、施行に先立ってFMRIで機能代償部位を診断することが有用であり、その結果に基づいて、代償部位の対側(mirror region)に低頻度rTMSを適用することで、言語機能の代償が促進される可能性がある。我々は、感覚性失語症患者2名に対して治療的rTMSの長期的適応を試み良好な結果を得た。対象は、いずれもが発症後6カ月以上経過した感覚性失語を呈する患者であり、rTMS治療を開始する時点においては、通常の言語療法介入にもかかわらず、回復がプラトーになっていた。右大脳の代償機能賦活を促すことを目的として、左大脳Wernicke野への1Hz低頻度rTMSを6日間の入院治療下で計10セッション、退院後は毎週1回のペースで3ヶ月間(計12セッション)行った。これに加えて通常の言語療法も各rTMSセッション終了後に引き続き60分間行った。これによって、3ヶ月間の外来治療終了時においては、入院治療開始前と比して、聴力理解能力の指標となるTokenテストのスコア向上およびSLTAの聴覚・視覚理解項目の改善が確認された。過去においては、我々が試みたごとく失語症患者に対して数カ月という長期にわたって治療的rTMSを適応した報告は知られていないが、これらの結果から判断すると長期にわたってrTMSを適用することで、脳の可塑性が高まり、その状態をより長く持続させることができる可能性があると思われた。そして、言語療法を併用したことでその効果の有用性が確固たるものになったと考える。
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