研究概要 |
これまでに我々は,被験者により強く自己運動錯覚を生じさせるために,動画と被験者との身体を可能な限り現実の状態に近づけることが必要であること,さらに両者の位置関係がずれていても,それが視界に入らない状態を実現することによって自己運動錯覚を生じさせることができることを明らかにしてきた。平成21年度は,この自己運動錯覚誘起課題の実施効果を高める方法について,複数の方法を組み合わせる点に着目して検討を行った。具体的には,これまでに我々が開発してきた視覚入力による自己運動錯覚誘起方法に運動イメージ想起を組み合わせて実施した。運動錯覚誘起および運動イメージ想起ともに,実際の運動を伴わないにもかかわらず皮質運動野の興奮性は高まることが報告されている。本研究では,皮質運動野の興奮性を経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて誘発される運動誘発電位(MEP)によって評価した。また,運動錯覚誘起と運動イメージ想起の併用による効果を検証するために,安静状態,運動イメージ想起のみ,運動錯覚誘起のみ,運動錯覚誘起と運動イメージ想起の併用,の4条件を行い,各条件のMEP振幅値を比較した。 実験の結果,安静状態よりも運動錯覚誘起,運動イメージ想起,両者を併用した条件で皮質運動野の興奮性は高まることが明らかとなった。さらに,運動錯覚誘起と運動イメージ想起を併用すると,各々を個別に実施した場合に比べて皮質運動野の興奮性はさらに高まることが明らかとなった。これらのことから,関節固定などの身体不活動や脳血管障害による運動機能低下を予防,回復させるための治療的介入において両者を併用することが一つの有効な手段になるのではないかと考えた。
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