研究概要 |
平成22年度は,視覚情報呈示により誘起される自己運動錯覚と,皮膚感覚入力,運動イメージ想起,さらに経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を組み合わせる(多重同期刺激)ことで得られる皮質運動野における長期増強様効果を臨床応用するための基盤的研究行い,以下のことを明らかにした。 1)多重同期刺激による長期増強様効果について 多重同期刺激を介入条件として実施した後に運動誘発電位(MEP)の振幅を指標として,皮質脊髄路の興奮性変化を調べた。多重同期刺激を介入方法として用いたときには,介入終了直後,終了後30分を経過した時点まで,MEP振幅値は有意に高値を示していた。この結果から,多重同期刺激を用いることで,皮質運動野の興奮性が増大した持続時間を延長できる可能性があることが示された。 2)皮膚感覚入力と運動イメージ想起を実施した際の,H波振幅の変化について 皮膚感覚入力および運動イメージ想起をそれぞれ単独で行った場合にはH波の振幅は変化しなかった。しかし,両者を同時に実施することによってH波振幅は増大した。今後,随意運動出力に伴う中枢指令と,皮膚入力による求心性入力とが,どのような機構によって相互に影響しあっているかについて,検討する価値があるものと考えた。 3)短期間の関節固定中に行う自己運動錯覚による介入が,運動機能低下予防へ及ぼす影響について 手指を12時間固定する間に,自己運動錯覚の誘起による介入を実施した。その結果,示指最大外転筋力は,固定群で明らかに低下したが,介入群では筋力の低下を予防することができた。しかし,筋出力調節課題の成績が低下することを防ぐことはできず,運動機能検査の性質に依存した効果であることが推察された。自己運動錯覚を臨床症例に応用するにあたり,ポジティブな結果であると考えた。
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