研究概要 |
本研究の最終目標である「家庭用の便器内藏型光学式尿成分自動計測システム」の具現化に当り、今年度はまず分光学的手法による尿中グルコース濃度推定法に関する基礎実験を行った。具体的にはグルコース濃度が0〜150mg/dlの範囲で、かつ妨害物質としてアルブミンを含む模擬尿溶液を調製し、FT-IR型近赤外分光装置(現有設備)により吸光スペクトルを計測した。その結果、各波長における吸光度とグルコース濃度との間にいわゆるBeer-Lambart則が成り立たず物理モデルの適用が困難であることが判った。そこで得られたスペクトルに対して「ケモメトリクス法」の一手法であるPLS法を用いて検量モデルを構築し、検体のグルコース濃度予測を行ったところ、妨害物質であるアルブミンの存在下においても平均5mg/dl程度の予測誤差でグルコースの濃度予測が可能であることが確認された。 次に健常成人男性9名の尿を被検溶液とし,グルコースを加えた様々な濃度別サンプル(1-505mg/dl 443個)を調製し近赤外吸収スペクトルを計測した。得られたグルコース濃度別データ群をモデル構築用と検定評価用に分けPLS法を用いて尿糖濃度予測を行った.その結果、単一被験者に対する平均予測誤差は24.3mg/dl,平均相関係数は0.982となり,本法により尿中グルコース濃度が推定可能であることが確認された.一方、複数被験者のデータを用いてモデル構築した場合(モデル構築用データ332個,濃度予測用データ111個)、平均予測誤差は45mg/dlと単一被験者の結果と比較すると大きくなったが、市販の尿試験紙の測定濃度範囲(最大1,000〜2,000mg/dl)を考慮すれば十分実用に供し得る計測精度を有しているものと考えられた。
|