研究概要 |
本研究は、ヒトの行動の組織化(ヒトがいかに活動し休息しているか)に関する普遍統計則(Nakamura,T.,etal.Phys.Rev.Lett.99:138103,2007)を切り口に、行動・運動異常をきたす精神・神経疾患を分類し、病態との関連からヒトの行動制御系について考察するとともに、同様の普遍統計則を持つモデル系の解析を通じて身体活動時系列の生成機序を明らかにしようとするものである。平成20年度は下記の疾患の身体活動時系列と臨床情報を収集し、各疾患におけるパラメータの偏位およびパラメータと臨床情報の関連の解析を中心に行った。パニック障害(N=19)、神経性無食欲症(N=12)、緊張型頭痛(N=52)、筋萎縮性側索硬化症(N=25)、パーキンソン病(N=11)の身体活動時系列から、活動期間、休息期間の持続時間の累積確率密度分布を得て、それぞれべき乗分布P(x>a)〜a^(-Y)および伸張型指数分布P(x>a)〜exp(・αa^β)にフィッティングし、べき指数Y、αおよびβを算出した。その結果健常対照群(N=11;Y=0.92±0.02,α=1.39±0.03,β=0.58±0.02)に対し、パーキンソン病群(Y=0.84±0.03,α=1.28±0.03,β=0.69±0,03)では有意にαが大きくβが小さかった。他の疾患では健常対照群との有意差は認めなかった。パラメータと臨床情報との関運では、パニック障害群および緊張型頭痛群で、不安(日本語版POMS緊張不安得点)とYの間に有意な正の相関を認めた(それぞれr=0.467,p=0.044;r=0.442,p=0.001)。以上から、活動期間の持続時間分布の偏位がパーキンソン病の運動異常を反映する可能性、休息期間の持続時間分布におけるうつ病患者群とは逆の偏位が、不安に伴う落ち着きのなさな等の行動変化を反映する可能性が示唆された。
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