本年度は、高位中枢活動が筋受容器反射をどのように修飾するかを解明する目的で、1)ヒト下肢の他動運動時にみられる循環調節機構とそれに及ぼす睡眠の影響、そして2)覚醒動物後肢の他動的ストレッチに対する循環反応とそれに及ぼすPropofol麻酔ならびにセロトニン作動薬・拮抗薬の影響を調べた。 1. 心電図、動脈血圧、心拍数、毎分心拍出量、一回心拍出量、末梢血管抵抗および脳波を記録しながら、両足を自転車エルゴメーターのペダルに固定しモーター駆動により下肢に他動的回転運動を与えた。この他動的回転運動は主に筋機械受容器のみを刺激すると考えられる。覚醒時に実施したこの運動は心拍数、一回心拍出量、毎分心拍出量ならびに動脈血圧を軽度増加させ、末梢血管抵抗を軽度減少させた。超音波エコードップラー法を用いた上肢筋血管抵抗の計測から、他動的運動は筋血管抵抗を減少させることを明らかにした。対照的に、睡眠時に実施した他動的運動は心拍数ならびに動脈血圧を大きく増加させたので、覚醒-睡眠サイクルで変化する高位中枢活動が筋機械受容器反射を修飾することが示唆された。 2. ヒトの実験結果と同様に、覚醒ネコ後肢の他動的ストレッチは心拍数および動脈血圧を軽度増加させた。続いてPropofol麻酔薬を静脈内投与したところ、Propofol麻酔は他動的ストレッチに対する心拍数や動脈血圧の応答を亢進した。覚醒状態で投与したセロトニン拮抗薬も他動的ストレッチに対する心拍数や動脈血圧の応答を亢進させたが、逆にセロトニン拮抗薬は心循環反応を低下させた。以上の所見は、麻酔薬の影響を受ける高位中枢活動が筋機械受容器反射を修飾し、このような中枢活動に脳内セロトニン系が関係することと思われる。
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