研究概要 |
本年度は,覚醒-睡眠サイクルに伴う高位中枢活動の変化が筋受容器の賦活に伴う反射性循環応答を修飾するか否かを同定した。更に,覚醒-睡眠状態で変化する神経伝達物質であるセロトニン(5-HT)に着目し,実験動物を用いて5-HTが筋受容器反射の修飾と関係するか否かを調べた。 【ヒトを用いた研究】 1.被験者6名の右下腿三頭筋に刺激電極を,胸部に心電図電極を,非利き手に指尖連続血圧計を,そして前額部に脳波電極を装着した。実験操作として下腿三頭筋の他動的ストレッチおよび電気刺激による等尺性筋収縮(最大弾度の20%レベル)を1-2分間実施し,心拍数,動脈血圧,毎分心拍出量および末梢血管抵抗の応答を計測した。筋ストレッチは機械受容器を主に刺激し,筋収縮は機械受容器のみならず代謝受容器も刺激した。 2.覚醒時に実施した他動的ストレッチや誘発筋収縮は筋機械受容器反射や筋代謝受容器反射を賦活しなかったが,睡眠時に実施した同一の実験操作は心拍数や毎分心拍出量を有意に増加させ動脈血圧を上昇させた。これら心循環応答の時間経過が他動的ストレッチや誘発筋収縮間で異なったので,筋機械受容器そして代謝受容器反射力睡眠時に増強すると考えられた。これらの所見は覚醒-睡眠サイクルに伴う高位中枢活動の変化が筋機械受容および筋代謝受容器反射を変調することを初めて示唆した。 【実験動物を用いた研究】 5-HT_<IA>受容体の作動薬あるいは拮抗薬を静脈内に投与し,5-HT_<IA>が筋機械受容器反射に及ぼす作用を調べた。その結果、5-HT_<IA>受容体の作動薬は一貫した影響を示さなかったが,5-HT_<IA>受容体の拮抗薬は覚醒下あるいは麻酔下で実施した後肢ストレッチに対する反射性心拍数および動脈血圧応答を増加させた。ヒトで観察された覚醒-睡眠状態による筋受容器反射の修飾にセロトニンが関係することが示唆された。
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