研究プロジェクトの目的として挙げた3項目中の第2項目「様々なレベルの選手におけるバット速度及びローリングの速さを計測し、それら計測値と打球の速度と回転数との関係をモデリングすることにより、バットとボールの動弾性学的特徴を数値化すること」を目的とした研究を実施した。大学野球部員13名ならびにプロ野球選手8名を対象に、フリーバッティングにおけるバットのスイング速度とローリング速度に加え、高速度カメラによる撮影を通じてバットの軌道、インパクト位置、打球速度・回転数を計測した。これら計測結果をもとに、飛距離を伸ばすバッティングの特徴の検討とシミュレーションモデルの構築を行なった。 飛距離を伸ばすバッティングの特徴は、回帰分析を用いて明らかにした。その結果、打球の飛距離を伸ばすためには、(1)大きなローリング速度を持たせたバットを、(2)アッパースイング気味の軌道でスイングすることにより、(3)投球されたボールに対して正面衝突させるように打撃をおこなうことが重要であることが明らかとなった(雑誌論文1)。また、振動実験によって実測したバットの弾性特性を考慮した衝突シミュレーションモデルを構築し、実測したサンプルと同じ入力条件によるシミュレーションを実施することにより、モデルの妥当性を検討した。その結果、フリーバッティングにおいて実測した投球速度、回転数、バット速度、ローリングの速さを入力値として算出した打球の挙動(方向、速度、回転数)は、実測結果とよく一致することが確認された(雑誌論文2)。 米国カリフォルニア大学のハバード教授の協力のもと、実測により収集したデータを用いて順動力学解析を実施した。その結果、ローリング角速度を増加させたバットがボールに衝突する際、バット-ボール間生じる摩擦力が増大することにより、同一飛距離の打球を放つ際においても(1)打球の回転数の増加および(2)打球の弾道の低空化が起こることが明らかとなった。
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