研究プロジェクトの目的として挙げた3項目中の最終項目『バット速度と打球との関係、及びローリングの速さと打球の軌跡・飛距離との関係を明らかにすることにより、打球の軌跡を最適化し、飛距離を伸ばすためのメカニズムを解明すること』を目的とした研究を実施した。弾性モデリングを応用した数値分析は、米国カリフォルニア大学ハバード博士の協力のもとに実施した。モデルは、前年度に作成されたものに改良を加え、推定精度が向上したもの(雑誌論文1)を用いた。その結果、ローリング角速度の増加が最大飛距離に及ぼす影響は小さいが、ローリング角速度の増加により、同一飛距離の打球を放つ際に、より回転速度の高い打球を、より低い弾道で放つことができることが明らかとなった(雑誌論文2)。この打球を生み出すメカニズムは、ローリング角速度を増加させたバットがボールに衝突する際、バット-ボール間生じる摩擦力が増大することに起因するためと断定された。このモデル分析の結果は、様々な選手が打撃を行なった際に実測された値から統計的に分析した結果(投稿論文・査読中)と一致した。また、バットのローリング速度を獲得するメカニズムを明らかにするため、電磁ゴニオメータを上肢セグメントに貼付した選手に打撃実験を行わせるという手法を用いて運動解析を行った。この研究の結果、投手側上腕の外旋→前腕の回外→バットのローリングの順序で捻り運動が開始されるという連鎖運動が観察された(雑誌論文3)。今後の継続的な分析により、このような捻りの連鎖運動がどのような動力学的メカニズムで発生するのかを明らかにする予定である。この最終分析の完了により、低い弾道で勢いのある打球を放つバッティングの特徴や飛距離を伸ばすバッティングの特徴、およびそれらを可能にする身体運動のメカニズムを解明するという、本研究プロジェクトの目的が達成されることになる。
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