研究概要 |
海馬は学習・記憶や空間認知機能を担う脳部位として知られ、歯状回では成熟後でも運動することで神経新生が高まり(成熟海馬神経新生,AHN)、認知機能向上に寄与することが示唆されている。しかし、そのほとんどが自発的な輪回し運動を用いた研究によるもので、走行量以外に、運動強度(速度)など最適な運動条件の詳細についてはいまだ決着をみない。運動は強度によりでストレスとなる。自発的な輪回し運動でも、走リ過ぎは副腎も肥大し、血中に増加する副腎皮質ホルモン(GC)の影響で神経新生は抑制される。本研究では、その問題を解明するための第一ステップとして、ストレスを伴う・伴わない、二つの異なる運動強度による独自のラット(マウス)の走運動モデルを用い、"海馬歯状回"の神経新生ならびに空間認知機能をともに高める最適運動強度は何かを明らかにした。LT強度を境に低強度群(〈LT、ストレスフリー群)と中・高強度群(≧LT)(ストレス運動群)の3群を設定し、2週間の走運動トレーニングを行わせ、AHN促進効果が最大となる強度を明らかにする。動物はラットとマウスを両方用いた。マウスのLTは今回初めて同定を試み、ラットと同様、分速20m付近にあることを確認した。両動物とも2週間の走運動トレーニングを行わせた。神経新生の解析は、成熟神経細胞だけでなく、DCX(ダブルコルチン)陽性幼弱神経細胞についても評価し、運動効果の作用点を検証した。その結果、両動物ともに低強度運動でも十分AHNが増加し、その効果は中強度でも変わらなかった。特にマウスの中強度運動では運動効果が消失することがわかった。中強度運動では乳酸やコルチコステロンの増加を伴うことから、繰り返し脳にはたらくステロイドが海馬の幼弱神経の発達もしくは成熟神経の生存を阻害する可能性がある。なお、今回、組織化学に用いたstereologyはスペインカハール研究所との二国間共同研究により導入した方法により行った。
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