積極的な健康増進、生活習慣病の予防と改善、そして介護予防の観点から、身体運動により筋機能(筋力)を維持増強する重要性が指摘されている。そこで本研究では、温熱刺激による骨格筋肥大の分子機構の全貌を解明し、効果的かつ効率的な骨格筋肥大法および加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)の予防・改善策を提示することで、スポーツ科学を飛躍的に発展させることを目的とする。本研究は4年計画で実施され、本年度はその1年目に当たる。まず、in vivo実験としてwild typeのマウスを用いた実験では、温熱刺激による骨格筋の肥大には(1)NF-KBに関連したサイトカインシグナルが発生すること、(2)骨格筋組織幹細胞である筋衛星細胞のproliferative potentialを増大すること、そして(3)タンパク質発現の網羅的解析により温熱刺激により26のタンパク質発現に差が認められ、特にショックタンパク質(HSPs)の発現に特徴的な変化が認められた。現在、マウス骨格筋におけるストレス応答において中心的な役割を担っている熱ショックファクター1(HSF1)を過剰発現ならびに欠損したマウスを用い、ヒラメ筋の量的変化を誘発するストレス応答の役割を追求している。さらに、ヒトを対象とした実験により、温熱負荷により(1)筋力増大を伴う筋肥大が引き起こされること、そして(2)ストレス応答において中心的な役割を担っているHSPsならびにインスリン様成長因子関連の遺伝子発現を確認した。以上より、温熱刺激による骨格筋肥大における「ストレス応答」の生理学的意義が次第に明らかにされつつある。今後、ストレス応答の骨格筋可塑性発現機構における意義についてさらに検討を進めていく予定である。
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