積極的な健康増進、生活習慣病の予防と改善そして介護予防の観点から、身体運動により筋機能(筋力)を維持増強する重要性が指摘されている。そこで本研究では、温熱刺激による骨格筋肥大の分子機構の全貌を解明し、効果的かつ効率的な骨格筋肥大法および加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)の予防・改善策を提示することで、スポーツ科学を飛躍的に発展させることを目的とする。本研究は4年計画で実施され、本年度はその3年目に当たる。マウス骨格筋におけるストレス応答において中心的な役割を担っている熱ショックファクター1(HSF1)を欠損したマウスを用いた検討により、HSF1欠損によりヒラメ筋における熱ショックタンパク質(HSPs)の発現量が低下していたが、荷重除去による筋萎縮の程度にHSF1欠損の影響は認められなかった。また、筋萎縮後の再荷重による再成長はHSF1欠損により部分的に抑制され、HSP72の発現増加も観察された。萎縮後の再荷重によりAkt/mTORを介さないタンパク質合成の維持と細胞の保護に働くことも明らかとなった。一方、温熱刺激は、calpain 2およびユビキチンによる筋タンパク質分解の亢進を抑制できること、NF-κ Bシグナルを介して筋タンパク量を増加させることが明らかとなった。また、ヒトを対象とした長期間の温熱負荷実験により、925種の遺伝子の発現増加と1300種の遺伝子発現の減少を伴う筋肥大ならびに筋力増強効果を確認した。以上より、温熱刺激による骨格筋肥大における「HSF1を介したストレス応答」の生理学的意義が順調に明らかにされつつある。今後、骨格筋可塑性制御におけるシグナル伝達ならびにストレス応答についての解析を進め、温熱刺激による骨格筋肥大の分子機構の解明を目指す。
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