研究概要 |
本研究では、脳血管障害の他、インスリン抵抗性、高血圧、骨粗鬆症、動脈硬化などの生活習慣病の発症進展の予知予防を最終的な目標として、島根県の中山間地域で健康調査を行い、(1)大規模かつ多くの医学社会科学的情報を有するコホートの起ち上げ、(2)それを用いた横断的研究による要因の解析、(3)20年前の健康調査データを有する一部の集団での縦断的解析、を目標とした。本年度は新たに2地域で健康調査を実施し、コホートの総数約4000名を達成した。これらのコホートでは頸動脈壁厚、認知機能、呼吸機能、運動機能などの測定の他、ソーシャルキャピタル情報、ADM,sdLDL,RemC,isoprostane,ホモシステインなど新たな疾患の危険因子あるいはマーカーとなる物質の測定も実施しており、有用性の高いものとなった。また、このコホートを利用した要因解析では、(1)ソーシャルキャピタルのうち、近隣の住民に対する信頼感が低いものは、血圧が有意に高いことを横断的研究で明らかにするとともに、(2)酸化ストレスの生成、消去に関与する酵素5つの遺伝子内の6個の機能的な遺伝子多型が、酸化ストレスマーカーであるisoprostaneレヴェルに影響するかどうかを検討したところ、単独では有意な影響は得られなかったものの、近年開発された遺伝子間相互作用を解析するプログラムによる解析で6個のうちの特定の2個もしくは3個の遺伝子多型の組み合わせが有意な影響を与える可能性が示された。これらの結果はソーシャルキャピタルや遺伝子多型間相互作用など、これまで検討がされてこなかった要因の解析を先駆的に実施した意味でユニークな成果である。これに加えて現在(3)20年前の健康調査のデータを合わせ、20年間の血圧変化に対する飲酒癖とアルコール代謝酵素遺伝子多型との相互作用についての検討を実施しており、今年中には公表の予定である。
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