研究課題
本研究は、心理的ストレスに対するコーピングとして、陽性感情を表出することの効果を動物モデルとヒトの職場ストレスをモデルに分子生物学的に検証することを目的とする。本年度は動物モデルを用いて、拘束ストレス負荷後のTickling刺激の効果について、ラット脳内遺伝子の発現の差を網羅的に解析する。Wistar系ラットを離乳直後(3週齢)から2週間個別飼育し、実験最終日に金網による拘束ストレス(30分間)を与えた後、5分間の陽性ストレスとしてTickling刺激を与え(対照群には刺激を与えない)、Tickling刺激の抗ストレス効果を行動指標の解析(音声解析、接近待機時間の測定)、血液中生化学指標の解析(コルチコステロン濃度及びカテコールアミン濃度)、遺伝子発現解析(DNAチップ法)により検証した。その結果、Tickling刺激群は陽性感情の指標の50kHzの音声を発したが、対照群では当音声が観察されなかった。また、報酬刺激の指標である接近待機時間は、Tickling群では対照群と比較して有意に短かった(P<0.05)。以上の2点から拘束ストレスを与えたラットに対しても行動学的にTickling刺激が陽性刺激となっていることが検証された。更に、拘束解放1時間後の血中アドレナリン濃度も有意に減少し(P<0.05)、Tickling刺激が拘束ストレスを抑制する効果があることが示唆された。脳サンプルを用いての遺伝子発現解析は現在解析中である。