研究概要 |
昨年度までと同様に4-メチルウンベリフェロン(MU)の投与により作成したヒアルロン酸ノックダウンマウスから採取した組織を用いて,本マウス特異的遺伝子及びタンパク質の発現を病理組織学的及び分子生物学的に解析し,老化症状発現との関連を検討した。その結果,V型及びVII型コラーゲンの遺伝子及びタンパク質発現をMUは抑制し,しかもこの発現抑制は転写レベルで作用していた。何れのコラーゲンの減少も皮膚の老化に関与し,本マウスの皺の形成にも関わることを見出した。また昨年度の研究でヒアルロン酸レセプターであるRHAMMの発現がMUにより抑制されることを見出したので,本年度は更なる解析を進めた。その結果RAHMM遺伝子の発現は皮膚の表皮角化細胞に特異的で,真皮線維芽細胞では全く認められなかった。この発現抑制も転写レベルで制御され,MUは転写因子を新生するのではなく,既存の転写因子をリン酸化してRHAMM遺伝子の発現を抑制している機構を見出した。また,MUは老化関連遺伝子Sir7の発現も抑制しており,これが本マウスにおける老化促進に関わっている可能性を見出した。次にMUによって発現が著明に減少するV型及びVII型コラーゲン,RHAMM, toll-like receptor 3,サイクリンY等のタンパク質発現ベクターを構築し,各リコンビナントタンパク質をヒアルロン酸ノックダウンマウスの皮内に注入したところ,何れにおいても皺の形成は抑制されなかった。これまでの研究からMUは単にヒアルロン酸合成に関わる遺伝子の発現のみを抑制するのではなく,その作用は多岐に渡ることを明らかにした。従って単に発現減少した遺伝子の本マウスへの投与は十分な治療に成り得ないことが明らかになり,様々な遺伝子を組み合わせたカクテル療法が必要であると考えられた。
|