研究概要 |
薬用果実であるカリンを材料とし,加熱加工条件や成分特性の違いがゼリーや果肉ペーストなどの加熱加工品の品質および機能性成分にいかなる影響を及ぼすかを調査した。ゼリーの素材となる熱水抽出物については,2時間の煮沸抽出によって,果実中のポリフェノールよりも低分子化合物の比率が高いポリフェノール画分が得られた。この結果は,単離した粗精製ポリフェノールを用いた加熱モデル実験の結果と類似していたが,低分子成分の生成率はモデル実験の場合よりも少なかった。また,ペクチンを含む多糖類画分をゲル濾過クロマトダラフィーで分析したところ,煮沸1時間までにピーク分子量の急激な低下がみとめられ,加熱によるプロトペクチンの分解・可溶化によって平均分子量が低下したことが示唆された。一方,果肉ペーストについては,その色調が加熱調理時間と有機酸濃度に影響され,4時間の加熱で有機酸濃度が1.0%以上となるように調製すると特に顕著な発色がみとめられた。ポリフェノールについて可溶性と不溶性(結合型)に分けて調査したところ,可溶性ポリフェノールは加熱によってクロマトグラム上の早期溶出成分の量が増加し,かつプロシアニジンの平均重合度および総含量の低下がみとめられ,その一方でラジカル消去活性は増加した。このことから,プロシアニジン高重合体の断片化と同時に他成分への分解や他の高分子成分への重合が起こったことが示唆された。一方,不溶性ポリフェノールはプロシアニジンの平均重合度が高く,加熱によって低下したが,4時間加熱後も高い平均重合度(mDP=30)を維持していた。果肉ペーストは不溶性固形分にもポリフェノールとラジカル消去能がみとめられたことから,この加工調理法はカリンの機能性成分の活用に有効であると思われた。
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