研究概要 |
TIMSSやPISAの結果を分析し,日本の小学生は推論領域の課題に対する平均正答率が知識領域及び応用領域に比べて低く,推論能力は国際的なレベルとしては高いことや,中学生は,自分で推論し,表現することに課題が残ることが示唆された。高校生は「科学的な疑問を認識すること」や「現象を科学的に説明すること」に課題があることが示された。 TIMSS2007の中学生を対象とした12個の論述式課題に対する回答を,特に科学的な根拠の記述で用いられる「から」と「ので」の助詞に着目し,回答の語句の関連を自己組織化マップによって分析した。その結果,「から」と「ので」に関連した語句による妥当な知識の関連がみられ,これらの助詞を用いて科学的な根拠が記述される場合が多いことが明らかになった。さらに,「から」に比べ「ので」の方が,より具体的で妥当な知識の関連がみられることが明らかになった。 TIMSS1999ビデオにおける日本や米国の中学校理科授業中の教師による496の疑問文について分析を行い,ウィンドウモデルと名付けた分析モデルを提示した。これは,複雑な教師の疑問文を可視化できる可能性を持っている。 小中学校の教科書分析については,問題解決の流れを決める「問い」に着目して分析を進め,中学校については5社の教科書全部の分析結果をとりまとめて発表した。また,小学校については新学習指導要領向けの1社を分析した。全体的に,仮説にまで踏み込んで二者択一で回答できる「問い」が多く,疑問の形式としては「どのような」や「どのように」の後に「変化」「違い」などの言葉を補って成立する形の問いが多く,内容領域による違いも見いだされた。また,科学の根源的な問いである「なぜ」に関するものは少なく,観察や実験に直接つながる問いを日本の理科では重視している傾向を見いだすことができた。 これらの研究に基づき,問題意識の問いに対する結論を児童・生徒自らが論述できるようにする理科の授業実践モデルを開発し,書物として公表した。
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