研究概要 |
中国漢代の青銅鏡はその精緻な文様で特徴付けられるが、現代の鋳造技術をもってしても、再現することが出来ないほどの高度な技術が発達していたと考えられる。青銅鏡は研磨されており、鋳造の痕跡は失われている。また、鋳型である鏡笵は発見されておらず、当時の技術を解明することは困難であった。しかし、近年、中国の山東省臨〓斉国故城から大量の鏡笵が発見され、鋳造技術の解明が期待されていた。臨〓斉国故城に出土した青銅鏡の鏡笵には、しばしば黒色の皮殻が観察される。この黒色皮殻は、金属鋳込みに際して生じた鏡笵と金属との反応生成物であると考えられる。山東省文物局の特別な許可を得て、黒色皮殻を有する鏡笵に対する電子線プローブ微小領域分析(EPMA)を行った。その結果、黒色部分には、鏡笵を構成しているSi.Al,Ca,K,Feなどの岩石由来の元素やCu,Sn,Pb,Znなどの鋳込み金属に由来する元素が存在するほか、本来そこに存在する可能性がないSやCを初めて確認した。SやCは、人為的に加えられたと考えられ、Sは高温で融解した金属と反応して鏡笵表面に金属の硫化物が生じたと考えられる。これらの金属硫化物やCの存在が黒色皮殻の原因であることを初めて見いだした。また、X線吸収実験から、黒色皮殻中に存在するCuの一部が酸化銅として存在することも確認することが出来た。この酸化現象は鏡笵が土中に埋没されている間に被った風化という二次的な作用と考えられる。SやCの起源はまだ明らかではないが、離型材あるいは塗型材に含まれていたと考えられる。
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