現在、寛永寺谷中徳川家墓所は1号墓〜25号墓までの全ての墓所が発掘され、全ての人骨は国立科学博物館にてクリーニングおよび復元作業が継続されている。そのうち16個体が計測および形態観察が可能で、5個体は顔が細く、鼻が高く、眼が大きく、アゴが細いという、いわゆる「貴族」顔の風貌を示しており、これは記録されている出自と関係があると思われる。また、推定身長の平均値は147cmで、江戸時代人女性庶民の平均身長144cmに比べれば、やや大きい傾向にある。さらに古病理的な症例においても非常に特徴的な個体が複数含まれており、例えば15号墓の個体は推定身長が130cmと非常に低身長で、脛骨や胸郭の変形を伴っており、全身性疾患によるものと推測されている。 1号墓から15号墓までの有機質微遺体分析をおこなったところ、キク亜科、フトモモ科など食用または薬用として摂取された可能性が高い花粉、あるいは回虫卵や鞭虫卵などの人体寄生虫も発見されている。また、骨中の鉛濃度を調査したところ、江戸時代人庶民のものよりも高い鉛濃度が見られ、鉛白粉による汚染が疑われた。 これらの人骨は再埋葬される予定なので、本研究では後世においても利用可能なデジタルデータの採取も目的としている。デジタルデータの採取・保管および計測方法として、(有)アートアンドサイエンス社の協力のもと、マイクロCTおよびレーザー式三次元計測測定システムによって得られたデータの三次元構築プログラムおよび三次元計測プログラムを作成した。
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