平成23年度には、寛永寺谷中徳川家墓所出土人骨報告書の作成をおこなった。人骨の総数は少なくとも41個体存在し、そのうち、形態計測や観察が可能であった個体は16個体(頭蓋15個体、四肢骨16個体)であり、の生前の身分別では、正室は4個体(8号浄観院、12号心観院、13号証明院、15号澄心院)、側室は9個体(2号法心院、3号蓮浄院。4号安祥院、6号本壽院、16号不明2個体、22号至心院、23号香琳院、24号蓮光院)、生母は2個体(7号實成院、25号浄圓院)、そして息女は1個体(11号貞明院)であった。これらの人骨を詳細に調査・記載し、江戸庶民61個体、近代日本人41個体、現代人32個体と比較したところ、数多くのことが明らかとなった。例えば、1)正室人骨の特徴は正室という階級にあった個体の頭蓋形態は類似しており、「頭蓋骨が小さく、顔が細い」、「相対的な脳頭蓋の幅や高さは大きく、眼窩は高い」傾向にあること、2)側室は正室と庶民の中間に位置しており、個体によって大きく異なること、3)正室や側室の形態は江戸から現代に至る時代変化とはまったく異なる傾向を示しており、いわゆる「貴族的形質」が「現代化」によってもたらされたわけではない可能性が示されていること、4)四肢長管骨の太さや長さは江戸庶民と大きな違いはないが、頸部や胸郭などに特殊な姿勢や風習を示唆する形態が認められたこと、が明らかとなった。また、mtDNAの分析は12個体の抽出に成功し、それぞれの歯プログループはD4が6個体(50%)、B4とM7aがそれぞれ2個体づつ(17%)、N9a、Fが1個体(8%)と判明し、現代日本人における歯プログループ頻度と非常に近しいことが判明した。また、鉛分析では概して寛永寺出土人骨は鉛含有量が高い傾向にあるが、特に8号浄観院、15号澄心院、11号貞明院が高い結果となった。ただ、同じ正室であっても、12号心観院や13号証明院はやや低い値を示していた。
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