文化財保存修復材料に適すると考えられる牛皮膠と魚膠を生産した。牛皮膠は乾燥牛皮を原料としたA〜Cの3種類で、粘度(W)mPa・sとゼリー強度(W)gは、Aが4.0・166、Bが5.7・255、Cが5.8・282である。これらの牛皮膠を固着剤に用いた絵具の発色はいずれも良く、用途として、Aは膠絵具の固着剤・剥落止めの強化処置・製墨、BとCは膠絵具の固着剤・剥落止めの接着処置に適している。魚膠はニベ(韓国では民魚(ミノ)と称する)の乾燥浮袋を原料としてDとEの2種類を生産した。粘度(W)mPa・sとゼリー強度(W)gは、Dが8.0・374、Eが4.6・123である。Dはゼリー強度が大きく使い難いが、Dを加熱し熟成させて作ったEは木材の接着に有効であると考えられる。魚膠を木製品の接着剤に用いることは古文献に紹介され、今日でも韓国において伝統技術で家具などを製作する仕事に使われている。また、D・Eともに絵具の固着剤としては着色時の絵具の伸展に難があり、彩色の固着剤としては牛皮膠に優る性質を今のところ認めていない。 20年度の研究成果は、牛膠と魚膠の基本的な生産工程を構築し、21年度に向けて解決すべき課題を確認したことである。生産した牛皮膠は耐候性試験を継続中である。21年度の課題は、(1)原料の安定供給、(2)採取量の向上、(3)粘度・ゼリー強度・pHを調整し使用目的に応じた性質の膠を自在に生産できる工程の確立である。また、乾燥鹿皮の入手先を見つけ、古来の文献に記載されているが製法や現品が伝わっていない鹿膠を生産できる体制を作れたことは20年度の研究成果であり、21年度に鹿膠の生産を結実させ、広く紹介したい。
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