20年度~21年度の研究で未達成であった膠の原料に用いる乾燥皮の生産方法を22年度の研究により開発した。従来の和膠原料作りは、消石灰を用いた脂肪のケン化による脱脂と希硫酸による中和であったが、本研究で開発した方法は薬品類を一切使わず膠製造に適する原料を作ることである。このことにより、原料作りから製造に至る全工程で薬品や添加剤を使用せず膠を製造することが可能になった。22年度に確立した生産(製造)工程は次の通りである。 (1)原料となる生皮の入手、(2)膠原料作り、(3)原料の断裁、(4)原料の洗浄と水漬け、(5)煮込み(抽出)、(6)汲み上げ、(7)濾過(繊維屑の除去)、(8)濃縮、(9)凝固、(10)断裁、(11)乾燥。 当該研究の目的は、1.原料生産から膠の製造に至るまで一切の薬品・添加剤を使用しないこと、2.原料と生産製造工程、作られた膠の品質などを明記し、文化財修復・日本画制作・製墨の様々な用途に適した膠を流通させ、使用者が用途に応じて選択できる状況を作ること、であった。本研究により上記目的1は達成した。また、生産(製造)工程・技術を確立したこと、修復材料・絵具固着材・墨作り材料に適する膠を作れたこと、量産化技術を開発したことから、本研究成果を基盤として和膠の製造と流通が行われれば、目的2も達成できる。 三千本膠と京上膠の製造が平成21年度を最後に中止され、和膠が消滅する危機的な状況にあったが、本研究により従来品の欠点(薬品類の使用。用途に応じて選択できる品質の種類が極めて少ないこと)を改良し、また、情報開示した和膠を流通させる技術基盤を確立した意義は大きいと考える。 彩色文化財の修復で膠を用いることが主流になりつつある今日において、膠の製造技術を確立したことは我が国のみならず膠を用いる国や地域の文化財保存に役立つと期待できる。
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