長崎丸309次航海に参加して、2010年7月に東シナ海の済州島南方海域において、表層水中の溶存ケイ酸と生物ケイ酸濃度、および懸濁粒子中の生物ケイ酸と有機炭素のSi:C比の分布を調査し、同海域の栄養塩循環や一次生産に果たす珪藻の役割について検討した。済州島南西沖には溶存ケイ酸濃度2~10μMの表層水が広く分布していたが、局所的に溶存ケイ酸濃度の低い水塊がいくつか認められた。溶存ケイ酸濃度の低い海域は、生物ケイ酸濃度の高い海域と対応しており、調査期間中にも珪藻のブルームが観測された。PDMPOで染色された珪藻殻の観察結果から、活発に増殖してブルームを形成していたのは、ChaetocerosとPseudo-nitzschia属の珪藻であったことが明らかになった。その表面水の生物ケイ酸と粒状有機炭素のSi:C比は約0.26であり、栄養十分条件で室内培養した珪藻の平均的なSi:C比と比較してやや高いものの、同海域における有機炭素の下層への輸送に珪藻が重要な役割を果たしていることが明らかになった。 亜鉛は、炭酸脱水酵素に含まれているため海洋植物プランクトンの炭素固定に密接に関わっており、ケイ酸型の鉛直分布を示す。そこで白鳳丸KH-10-2次研究航海に参加して、炭素とケイ素の循環に関与する亜鉛の循環過程を調べるため、西部北太平洋亜寒帯域、オホーツク海、日本海において濾過海水試料・懸濁粒子試料を採取した。これらの海水試料中の亜鉛濃度および有機錯体を正確に測定するため、分析法の検討を行った。その結果、高圧水銀ランプを用いることにより、周囲の環境からの汚染を受けることなく有機態亜鉛を分解することが可能となり、検出限界は0.1nM程度と外洋域の試料を十分に測定できる環境が整った。今後、採取した試料の測定を行い、亜鉛とケイ素・炭素循環の関係を明らかにしていく。
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