海洋中深層の有機物分解における微生物群集の特性を解明し、中深層の生態系・炭素循環モデルの高精度化に貢献することを目的とし、観測および実験的な解析を進めた。学術研究船淡青丸KT-09-04次航海(平成21年4月21日~4月27日)では、相模湾において懸濁態有機物と微生物数の全深度分布の観測を行い、有機物に含まれるアミノ酸の化合物別窒素安定同位体比の分析を行った。その結果に基づき、中層における有機物の変質・無機化に対する細菌群集の寄与の推定のためのモデルの構築を進めた。海洋地球研究船みらいMRO9-03次航海(平成21年9月7日~10月l5日)およびMRIO-01次航海(平成22年1月1O日~2月24日)では、それぞれ、北極海および西部北太平洋における微生物活性の全深度分布と関連する物理・生物地球学的パラメータの観測を行った。また、得られた微生物サンプルの解析を進めた。その結果、北極海の中層において、微生物活性の鉛直分布に顕著なアノマリー(不連続面)が初めて観測された。さらに、北極海西部の陸棚からカナダ海盆にかけて、中深層への有機物供給量が、顕著な水平勾配(陸棚から海盆にかけての減少傾向)を示すことが明らかになった。この知見は北極海における物質循環の水平構造を理解するうえで意義がある。さらに、中深層水に有機物を添加したときの原核生物群集の応答を実験的に解析した。以上の成果に基づき、北極海の中深層物質循環系の特性についての解析を進めた。また、海洋炭素循環の主要な制御機構としての微生物群集の相互作用の役割についての総説や原著論文をまとめ、国際誌に発表した。
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