研究概要 |
海洋中深層の有機物分解における微生物群集の特性を解明し、中深層の生態系・炭素循環モデルの高精度化に貢献することを目的とし、観測および実験的な解析を進めた。学術研究船白鳳丸KH-10-01次航海(平成22年5月18日~6月4日)及び海洋地球研究船みらいMR10-06次航海(平成22年10月18日~11月16日)において、平成22年度に引き続き、西部北太平洋における微生物活性の全深度分布と、関連する環境パラメータの観測を行った。また、得られた微生物サンプルの解析を進めた。その結果、北部北太平洋の原核生物群集の生産活性の鉛直分布パターンが亜寒帯海域と亜熱帯海域で大きく異なるということが明らかになった。すなわち、亜寒帯海域では、有光層直下から海底までの原核生物活性の減衰が、両対数軸上でほぼ直線であったのに対し、亜熱帯海域では、1,000m以深の水柱において、深度方向での活性の減衰指数が著しく低減する傾向がみられた。このような現象は先行研究では見られていないことから、本研究で調査を行った亜熱帯海域では、深層の有機物循環が、他の海域と異なる特性を持つものと推察した。一方、異なる季節に得られたデータの解析から、中層の原核生物活性が、夏季において、冬季よりも数倍高くなるという現象が見出された。このことから、表層の一次生産の季節変動が、中層の原核生物活性に比較的短い時間スケールで伝わることが示唆された。更に、亜熱帯中深層水を用いた長期培養実験を行い、ウィルスの減衰速度の測定を行った結果、ウィルス集団の中に、1週間以内の回転時間を持つ易分解性の亜集団と、数か月以上の回転時間を持つ難分解性の亜集団が存在する可能性が示された。以上の結果は、中深層における微生物群集が駆動する炭素循環をモデル化するうえで重要な知見である。本研究の成果を踏まえ、海洋における微生物群集活性の変動とその制御機構に関する総説と原著論文をまとめ、国際誌に発表した。
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