研究概要 |
1975年4月から2005年3月までの30年間の浅海定線調査データをもとに,有明海における透明度上昇と塩分変動や近年の赤潮発生状況との関連について解析した。その結果、透明度年平均値の有意な上昇は,湾奥西部の佐賀県沿岸から諌早湾湾口部に至る海域と,島原沿岸を除く湾中央部及び有明海湾口部で確認され,特に透明度上昇が顕著であった湾奥西部及び湾央東部海域では,近年赤潮が頻発していた。季節別に見ると,湾央東部及び有明海湾口部の透明度上昇は周年にわたり認められたのに対し,湾奥西部の透明度上昇は,河川流量が少なく鉛直混合が進行する10〜3月の平均値では顕著であったが,河川流量が多く成層が発達する4〜9月の平均値では確認されなかった。10〜3月の有明海湾奥西部海域における透明度の上昇は,潮流速の低下などに伴い,浮泥の巻き上がりが減少し,海域の懸濁物濃度が低下したことが主な原因であると推察された。4〜9月の有明海湾奥部及び湾央東部の熊本県沿岸域における透明度変動は,河川水の影響が大きいことが推察された。また,10〜3月の有明海湾奥部では,透明度上昇に伴う植物プランクトンの光制限の緩和が,近年の赤潮頻発の一因となっていることが示唆された。 2007年12月の光減衰係数は植物プランクトン色素よりも懸濁物質の吸収係数スペクトルに強く依存しており、特に大潮時に植物プランクトン色素以外の懸濁物質が多いことが明らかになった。また混合の強い大潮時には、植物プランクトンが弱光適応している可能性が示された。一方、これまでに取得した夏季の赤潮時の光吸収と上向き放射輝度のデータをまとめたところ、赤潮時には植物プランクトンの吸収が海の色を支配し、クロロフィルaの濃度でそのスペクトルの形がほぼ推定できることを明らかとした。
|