研究概要 |
1.目的 本研究課題では、(1)現場設置型全自動分析装置によるサンゴ礁炭酸システムの時系列連続観測をおこない、二酸化炭素の季節変動および経年変動の実態解明、(2)サンゴの飼育実験により、高水温、高二酸化炭素濃度、酸性化が光合成(生物生産)および石灰化(骨格形成)に与える影響を解明すること,(3)地球温暖化および海洋酸性化に対するサンゴの応答について、サンゴ類の骨格形成過程を制御する基質タンパク質の構造と機能に注目して分子レベルの解析、をおこない、(4)地球温暖化と海洋の酸性化に対するサンゴ礁生態系の応答と激変の可能性について総括を得た。 2.結果 (1)観測結果より瀬底島サンゴ礁における海水中の二酸化炭素濃度と石灰化速度との関係を得た。これにより、瀬底島サンゴ礁群集に依る石灰化は、二酸化炭素濃度が900ppmvに達すると石灰化速度がゼロになることが明らかにされた。 (2)サンゴおよび稚サンゴの飼育実験をおこない、海水の化学環境(Mg/Ca比)の変化によるサンゴ骨格形成過程への影響について試験し、特に成熟したサンゴでは、低Mg海水でもアラゴナイト骨格を形成できる調節機能があることを確認した。 (3)八方サンゴの骨格に含まれる"基質タンパク質"を抽出し、アミノ酸組成およびタンパク質機能の特性解についてin vitro結晶成長実験をおこない、分子間力顕微鏡および顕微ラーマン分光装置を用いて解析した。その結果、八方サンゴの基質タンパク質はカルサイト骨格を優先的に形成する機能を持っており、骨格形成を制御する生物種に特有な"鍵物質"の存在が示唆された。 (4)上記について、地球温暖化と海洋の酸性化に対するサンゴ礁生態系の応答と激変の可能性について総括した。大気中の二酸化炭素濃度の増加傾向が現在の状態で進行すると仮定すると、近未来において炭酸塩骨格を形成する海洋生物の生息が極端に脅かされ、瀬底島サンゴ礁においては今世紀末か22世紀初頭には海洋生物の石灰化過程が困難となり、生態系激変の可能性が予測された。 (5)以上の結果について、日本地球惑星科学連合大会(5月、幕張)、ゴールドシュミット国際会議(8月、プラハ)、日本サンゴ礁学会年会(11月、那覇)にて発表した。また、第1回地球温暖化に対する小島嶼国における影響の低減と適応に関する国際会議(12月、ザンジバル)の招待を受け基調講演をおこなった。
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