本研究は、南極海海洋生態系の主要構成種であるペンギン類について、海洋環境の変動により長期的な個体数・生態の変動が生じるメカニズムを明らかにすることを目的としている。具体的には、ペンギン類の採餌・繁殖にとって重要な海洋環境特性を、近年の個体数傾向が異なっている西南極地域と東南極地域の両方で調査し比較することで、地域的な海洋環境の変化とペンギンの個体数・生態変動との関係を明らかにする内容となっている。今年度は、本研究の最終年度にあたり、これまでの野外調査で得られたペンギンの採餌行動に関するデータ解析を進め、とりまとめの成果発表を行った。東南極地域にある日本の昭和基地で昨年度得られたアデリーペンギンの移動軌跡を解析したところ、海面が定着氷に覆われたこの地域では、ペンギンの採餌場所が海岸にそって広がる氷のクラックに限定されており、海氷の分布がペンギンの採餌行動を強く制限していることが明らかとなった。また、ペンギンの背中に取り付けたビデオ記録を解析したところ、ペンギンは中層においてオキアミを捕食するだけでなく、定着氷の直下の浅い深度(2-5m)に分布する魚類であるボウズハゲギスも頻繁に捕食することが明らかになった。調査年のアデリーペンギンの採餌トリップ長・繁殖成功率を、昭和基地での過去の調査結果、また西南極地域での調査結果と比較したところ、採餌トリップ長は長く、繁殖成功率は低かった。定着氷が発達した東南極地域の環境は、ペンギンにとってボウズハゲギスなどの海氷に強く依存した餌生物の利用を可能になるというベネフィットがある一方、採餌場所を制限されるというコストも大きいと考えられた。海氷の張り出し強度による採餌場所の制限から繁殖成功が変動する現象は、ペンギンの個体数の変動をもたらすメカニズムの一つとして重要であることが示唆された。
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