研究概要 |
本年度は、戦略的な交通施策の現状や課題について、現地調査およびアンケート調査により把握した。 まず、ヨーロッパの現地調査においては、フランスおよびイギリスの諸都市におけるLRT整備を基軸とするパッケージ型交通施策に関する現状と今後の課題について把握した。また、アジアにおける現地調査においては、シンガポールとソウルにおいて、新たな交通システムの導入による交通施策の展開について把握した。調査の結果、施策の実施により環境への配慮や移動の利便性が向上するだけでなく、不要な自動車の排除による都市景観の向上や公共交通に関連する物をデザインすることで都市の魅力が向上し、その他にも様々な付加価値を生み出すことが分かった。これらの事例の多くは、初めは施策実施に反対していた住民や商店街も、実施後は良い評価をしていることが分かった。 一方、日本国内においては、人口10万人以上の地方自治体(286都市)の都市交通政策担当者を対象としたアンケートを実施し(回答数167,回収率58%)、戦略的な交通施策の実施状況、実施意向、難易度、実施できない要因について集計・分析した。その結果、自家用車への依存、行政・民間の資金難、合意形成の難しさなどを背景に、先進的な交通施策はあまり進んでいない現状が明らかとなった。特に、駐車課金などの利用者側へ負担を求めるものや、トランジットモールなどの交通規制を要する施策は、実施状況も低く、合意形成などの難易度が高いため、今後も実施される可能性は低いことが分かった。一方、行政は施策を実施する意思は少なからずともあるが、予算や合意形成などの難易度が予想以上に高いことが分かった。
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