研究概要 |
放射線被ばくによるヒトの遺伝リスクはその大半を、特定遺伝子座を用いたマウス研究に依存している。しかしメスマウスの未成熟卵母細胞は極端に放射線に弱く死滅してしまうため、照射実験が成り立たない。本研究では、放射線照射したメス親から生まれたF_1ラットを用いてヒト女性の放射線被ばくによる遺伝リスクの解明を目指した。 2次元電気泳動:2.5Gy照射された未成熟卵母細胞に由来する750頭のF_1および同数の対照群F_1ラットの脾臓DNAについて2次元電気泳動(2DE)を行った。1次元目のNotI-EcoRV断片の大きさが1-5kbと5-12kbの2種類のゲルを作製し、合計3,000枚(照射群1,500枚、対照群1,500枚)の画像についてコンピュータ画像解析を行った。照射群に18個、対照群に35個の突然変異を検出した。これらの殆どはマイクロサテライトの反復数の変異したもので、放射線で引き起こされる主たる遺伝子欠失は照射群で3個、対照群で2個検出された。マイクロアレイで推定した遺伝子欠失の大きさは10kbから140kbであった。照射群の3個のうち、2個の欠失突然変異はオス親由来であり、メス被曝による放射線の影響は認められていない。 マイクロアレイCGH法:高密度マイクロアレイを用いたComparative Genomic Hybridization (CGH)法では、ゲノム全般にわたり遺伝子コピー数を調べられる。照射群と対照群1匹ずつを1組としてCGH解析を行い、平成22年度は30組について実験を行った。メス親に用いたSDラットは純系ではなく固体間に多くの多型が存在することが分かった。検出されたコピー数変異のDatabaseを作成し、突然変異の解析を進めている。平成23年度には200組についてCGH解析を終了予定である。本研究により得られる結果は、放射線が未成熟卵母細胞に及ぼす世界で初めての遺伝的影響評価となる。
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