妊娠ラットにトリブチルスズ(TBT)を混餌投与することにより、経世代曝露ラットを作成し、発達期の大脳皮質および中脳における遺伝子発現を独自のオリゴヌクレオチド・アレイ(450遺伝子プローブ)を用いて正常ラットと比較検討するとともに、発現変化を検出した遺伝子についてはリアルタイムPCR法による確認を行った。その結果、(1)大脳皮質より中脳に大きな変化が見られること、(2)発現変化するのは主としてミトコンドリア電子伝達系複合体および細胞内カルシウム濃度調節に関与する遺伝子であること、(3)中脳では、生後3週で離乳後はTBTを含まない通常の餌に切り替えても、6週齢の時点でなお持続的な影響が残ること、を明らかした。独自アレイの有効性を示すこの結果を学会発表し、現在、学術論文として投稿準備中である。また、マイクロアレイを利用して、水酸化PCBの経世代曝露による脳内甲状腺ホルモン・システムへの影響を調べた結果を論文発表した。 一方、初代培養神経細胞を用いて、細胞の生存に影響を与えるTBT濃度、曝露時間などを検討した。また、これを下回る低濃度で数日間曝露すると、細胞死ではなく、神経突起の伸展不良やシナプス形成不全が起こることを免疫組織化学的方法により確認した。現在、この系を用いて神経回路形成不全や神経活動低下を反映する遺伝子の同定を進めている。 このように、ミトコンドリア機能障害、神経回路形成不全、神経活動低下など、発達期脳に起こり得る代表的な障害を探知する遺伝子群を明らかにすることにより、さまざまな環境化学物質の発達期神経毒性を鋭敏に評価できるシステムの確立を目指している。
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