研究概要 |
前年度に引き続き、トリブチルスズ(TBT)の経世代曝露ラットを用いて発達期神経毒性を調べた。特に今年度は、発達期の経世代曝露と成熟後の曝露を比較するとともに、発達期の曝露が成熟後の再曝露に与える影響に注目し、これまでの遺伝子発現解析に加えて行動解析によっても検討した(本研究費で購入した行動解析システムを用い、オープンフィールド・テストを行った)。その結果、発達期曝露のみでは一過性の小さな変化しか示さなかったドパミン神経細胞のマーカー遺伝子発現が再曝露により1/4以下に低下し、同時に総行動量の低下や不安様行動の減少がみられることが分かった。発達期曝露は、それ自体が大きな傷害を引き起こさない場合でも、その後の曝露に対する感受性を上げることを示したこの成果は、本年秋の学会で発表するとともに投稿準備中である。また、現在、発達期曝露、成熟後曝露、再曝露による遺伝子発現の差をDNAマイクロアレイ法により網羅的に比較解析し、ドパミン神経細胞の傷害メカニズムを解析している。 一方、培養神経細胞を用いて、TBTによる細胞死に関与する遺伝子を調べるとともに、GFP導入細胞を利用して、より低濃度のTBTが神経突起に与える影響を定量的に評価する手法を考案した。また、神経突起やシナプスの形成と維持に関与する遺伝子を中心に作成した独自のマイクロアレイを用いて、神経活動やLTPの確立に伴う海馬切片培養系での遺伝子発現の時間経過を解析し、神経活動を反映する遺伝子群をさらに同定するとともに、独自アレイの性能を検証することができた(Kawaai et al., in press)。
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