研究概要 |
Tris (1,3-dichloro-2-propyl) phosphate(以下TDCPP)やTris (2-chloroethyl) phosphate(以下TCEP)などの塩素を含む有機リン酸トリエステル類は、難分解性で蓄積性があり、種々の毒性を有する。我々が世界で初めて単離に成功した含塩素有機リン酸トリエステル類の分解菌Sphingomonas sp.TDK1とのSphingomonas sp.TCM1に存在する新規分解酵素を単離・精製し、その特徴を明らかにするとともに当該酵素遺伝子を取得し、解析を行うことが本研究の目的である。平成23年度は以下の研究実績をあげた。 (1)TDK1株やTCM1株から単離・精製した新規ホスホトリエステラーゼのN末端アミノ酸残基は修飾されているため、これまでN末端アミノ酸残基は未同定であった。そこで、単離した当該酵素遺伝子から推定されたアミノ酸配列情報を参考にして脱修飾を試みた。その結果、N-末端アミノ酸残基はグルタミン残基であり、ピロ化による修飾を受けていることが明らかとなった。 (2)昨年度末にTDK1株及びTCM1株からホスホトリエステラーゼ遺伝子(oph)破壊株を得た。今年度は、サザンブロット解析による当該遺伝子破壊の確認を行うと共に更にその性質について解析した。各々の遺伝子破壊株は、無機リン酸を含む培地では野生株と同等の生育を示した。しかし、TDCPPやTCEPを唯一のリン源とする培地での生育は認められず、培養液に添加したTDCPPやTCEPの減少も認められなかった。更に、無細胞抽出液にTDCPPやTCEPの分解活性は検出されなかった。以上のことから、当該遺伝子が両株におけるホスホトリエステラーゼをコードする唯一の遺伝子であることが示唆された。 (3)TDCPPやTCEP、及び無機リン酸の濃度を変えた培養実験から、TDK1株やTCM1株のホスホトリエステラーゼはTDCPPやTCEPにより特異的に誘導合成されるわけではなく、むしろ無機リン酸の枯渇により誘導される可能性が示唆された。今後、より詳細なメカニズムの解明が必要である。
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