研究概要 |
本研究では、ポリラジカルの磁気的性質とらせん構造高分子の光学活性との融合による新しい磁気機能および磁気光学機能を創出することを目的としている。この目的を達成するため、具体的には、らせんピッチやシークエンスなど、らせん構造の精密制御とそれに伴う磁気秩序構造の制御を目指した。本年度は、次の項目について明らかにした。 1.シークエンス制御ポリ(1,3-フェニレンエチニレン)型ポリラジカルの合成と磁気的性質 3,5-ジヨードフェニルヒドロガルビノキシルと2,,6-ジ-t-ブチルフェノール残基を有する3,5-ビス[(3-エチニルフェニル)エチニル]ベンゼン誘導体をPd(PPh_3)_4触媒によりクロスカップリング反応させることで対応するポリ(1,3-フェニレンエチニレン)誘導体を新規に合成した。モノマー単位として1量体と3量体を重合させることで、らせん折り畳み構造形成時にヒドロガルビノキシル残基とフェノール残基が交互に積層する構造のポリマーを合成できた。これを化学酸化して得られたポリラジカルでは、溶媒を溜去することで反強磁性的相互作用を示唆するESR信号強度の減少が認められた。この粉末試料の磁化率が低温で弱い反強磁性的挙動を示したのに対し、らせん折り畳み構造を形成するアニオン溶液から酸化して得られた粉末試料では、その反強磁性的相互作用が抑制された。 2.シークエンス制御ポリ(9,10-アントリレンエチニレン)型ポリラジカルの合成 2,6-位にフェノール残基を有する9,10-ブロモアントラセン誘導体と2,7-位にフェノール残基を有する9,10-ビス(3-ヒドロキシ-3-メチルブチニル)アントラセン誘導体をPd(PPh_3)_4触媒存在下反応させ、置換位置の異なるヘテロ二量体を得ることに成功した。これをさらに同様の触媒系で重合させ、頭尾構造が制御されたフェリ磁性的相互作用が期待される側鎖置換構造の交互ポリ(9,10-アントリレンエチニレン)誘導体を得ることができた。2,7-置換体の単独ポリマーに比べて、側鎖間の立体障害により主鎖が捻れ、共平面性が低下したことが吸収スペクトルから示唆された。 3.ポリラジカルの高次組織化と磁気的性質 2-位にフェノール残基を有するアントラセン誘導体を1,8-アントリレン誘導体に結合することで、ポリ(9,10-アントリレンエチニレン)誘導体が折り畳まれた構造体の二量体モデルを合成した。モノマーと比較すると、450nm付近の吸収のブロード化とレッドシフトが認められた。また、蛍光スペクトルにおいても消光が見られた。これらはπ-π相互作用により共平面性が向上していることに起因しているものと考えられ、1,8-アントリレンユニットにより折り畳まれ、2-位にフェノール残基を有するアントラセンユニットが積層した構造を支持した。対応するバイラジカルのESRおよび磁気測定からは反強磁性的相互作用が認められた。
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