有機物のみからなる磁性材料の開発は、全く新しい有機機能材料の出現につながる基礎的かつ重要な研究課題である。本研究では、研究代表者が見出した"スピン整列を促す超分子シントン"をベースにラジカル分子に化学修飾を行い、その効果を精密な磁気物性評価から検証し、高性能な純有機ナノ磁性材料を構築する。 平成21年度においては、エチニル基、シアノ基などπ共役系を有する骨格の導入した誘導体を合成した。合成した有機ラジカル結晶について各種分光学的測定および電気化学的測定を実施した。固体状態における磁気特性は、直流および交流SQUID磁束計を用いて評価した。直流モル磁化率の温度依存性からラジカル分子間の相互作用を詳細に議論した。また、X線構造解析より得られる結晶座標を用いてDFT計算を実施した。実験データとモデル式を非線形最小二乗法で解析し、磁気カップリングパラメータを算出した。その結果、エチニル基、シアノ基では、置換基のπ共役系の効果により積層カラム間の磁気カップリングを増大する効果があることを明らかにした。さらに、インドール環6位にtert-ブチルニトロキド骨格を導入したバイラジカル分子の合成に着手し、基底3重項状態を示す誘導体の合成経路を開拓した。これら共役ニトロキシドラジカル骨格を導入するとベンゾ環のスピン密度が大幅に高くなると予想され、積層カラム内、カラム間の磁気カップリングが大幅に強化されることをDFT計算の結果をもとに考察した。
|